現在、阿蘇ジオパークには33箇所のジオサイトがあります。
どのジオサイトも、阿蘇のなりたちや人々の暮らしがぐぐっと迫ってくる素敵なところばっかりですが、中でも異彩を放っている、ピカイチ不思議な場所があります。
進撃の巨人の実写映画版でもロケ地となった、押戸石ジオサイト。今日は、このジオサイトの紹介をしながら、昔私が体験した不思議なお話もしていきたいと思います。
この押戸石ジオサイト、9万年前のカルデラ噴火のときに、火砕流に埋め残された山なんです。頂上には巨石がまつられ、周囲には岩が不思議な規則性で並んでいます。長い間、知る人ぞ知る隠れた名所で、ずっと地元の人に大事に守られていました。
謎の巨石群は、鬼がお手玉をして遊んだ跡として、鬼のお手玉と呼ばれています。確かに怪力の鬼でしたら、ホイホイと投げて遊んだんでしょうね。最後は並べて遊んだのかしら…と、想像力もふくらみます。
丘の頂上にある、ひときわ大きな岩には、注連縄がかけられています。この巨石、ある部分は磁気を帯びていて、磁石を近づけると針がひょこっと別の方を向きます。現地の人曰く、シュメール文字が岩に刻まれており、蛇(ナーガ)、牛(バール)の文字が、この地域の字、中原(なかばる)の由来となったとか。他にも、雨、女神などの文字も見られ、古代の祭祀の場だったのではないか、とも言われています。
ジオガイドの立場としては、どう紹介していいか難しいところですが、ここからの眺めは360度ぐるりと余すところなく絶景なので、よく晴れた日には私は立ち寄るようにしています。漏れなく喜ばれる、テッパンのジオサイトですね。
ここが人気スポットとなったのはこの15年くらいのことで、最初はパワースポット、神様と交信できる聖なる丘として紹介されました。スピリチュアルやね。その後は、UFOがたびたび来ている、上空に銀色のエネルギー体が現れるなど、嘘か真かわからないような噂も流れるようになりました。
さておき、ある日私はいつものように友人を連れて、押戸石を訪れました。その頃はまだジオガイドとしての勉強をする前でしたので、単純に景色がいい場所を案内しているだけのつもりでした。友人には喜ばれ、よく晴れた春の日を楽しんでいると、ちらほらと別のグループの方が来始めました。
女性が、何やら熱心に説明をしています。地元の案内人の方かしら。お邪魔にならないように、すこし離れた場所で景色を見ていると、その女性、案内を一区切り終えたタイミングで、こちらのほうへやってきます。
(……どうしよう、やっぱ邪魔だったかも……)
友人と二人、身構えていたら、女性は突然こんなことを言いました。
「あなた。今ね、ここの神様からね、お告げがあったの。この場所がどういうところか、あなたにお伝えしなさいって。だからね、今からあなたに、この場所のことをお話するわね」
「……へぃ!?」(ハイが上手く言えなかった)
ご案内はしてほしかった。確かに、どんな話をしているか、とっても興味はありました。でもまさか向こうからやってくるとは思わなかった。しかも、それが神様のお告げだとか!
そして、友人と二人で、女性の説明を聞きながら、巨石群をひとまわり。
岩の隙間は、やましい心があるものは通れない。参道は、産道に通じる、通る苦しみは産まれる時の苦しみ。追体験。
今の神社でいうところの手水場にあたる場所では、石の力で身を清めること。
癒しのわざをもつ人がいて、治癒のちからがある岩に患者を寝かせ、祈祷を行っていたこと。現代の岩盤浴のような。
注連縄がかけられていたあの岩には、古代の時代は半輝石の珠が埋め込まれ、岩全体が神々しく輝いていた。
岩のくぼみに酒、水をそそぎ、神に供えていたこと。
そのときに言われたことは、今でも全部、はっきりと覚えています。そこが本当に、古代にそういう姿だったのかは、私には未だにわかりませんが、やっぱりここは人の思惑を越えたものがある場所なのだなぁと、実感したのでした。
ジオガイドとしては、不確かなもの、ジオ的ではないものを説明するのは、はばかられるところではありますが。
神様が、あの女性を通して私に伝えたいことがあって、それが今、私のガイドとしての糧になっていることは、ひとつ、間違いがないことだと思っています。