6月も終わりに近づいてきた頃。東京都内で、全国草原再生ネットワーク10周年記念事業として、草原シンポジウムが開催されました。阿蘇の人間として、これは見逃せない!ということで、参加してきましたので、久しぶりの記事ですが、まずこのシンポジウムのことをご紹介したいと思います。
全国草原再生ネットワークの会長である高橋佳孝氏(阿蘇の草原再生にも長年関わっていらっしゃる方です!)がご挨拶。
第一部では、各地からの事例報告として、
阿蘇グリーンストックの清野さんが阿蘇の草原保全・再生の取り組みについてお話しされ、
「上ノ原入会の森」の魅力と保全について、森林塾青水の西原大志さん、カヤネズミの住むカヤ原復活プロジェクトというテーマで全国カヤネズミネットワークの畠佐代子さん、安比高原シバ草原の馬事文化の維持を目指してという内容で渋谷晃太郎さんがお話をしてくださいました。
最後に、環境に優しい石けん系消火剤を用いた森林および草原保全の取り組みについて、波多江修一さんのお話がありました。
我ら野焼erにとって、飛び火による森林火災は安全確保について悩ましい課題となっていますが、環境の保全という観点から、即効性や効果の高さという点からも、石けん系消火剤がいかに優れているかという、とても興味深く楽しいお話で、これはぜひ阿蘇に持ち帰って話さなければと思った次第です。
第二部はパネルディスカッションで、草原保全のこれからの10年というテーマで、環境省の岡野隆宏さん、日本自然保護協会の高川晋一さん、北広島町立芸北高原の自然館より白川勝信さんをパネリストに迎え、島根県三瓶自然館の井上雅仁さんがコーディネーターをされて、様々な事例について紹介していただきました。
それぞれがとても濃厚で面白いお話でしたが、それぞれについて話すとたいへん長くなりますので、全体を通して、私が特に気になったこと、大事だと思ったことを少しだけ、紹介したいと思います。
草原は、自然発生し、草原のままで保たれることはたいへん稀です。昔は、草原は人の生活に欠かせない資源を提供する場として、大切に保持されてきましたが、生活様式が大きく変わった今、次々と草原が姿を消し、保全も難しくなってきています。
その中で、草原を、そしてそこに伴う文化を残す上で、3つの課題があることを渋谷さんがお話していました。
①草原の存在価値の理解
②農耕馬に仕事をつくる
③草原保全の担い手の確保
①…草原があることで、どんなメリットを享受することができるか。ただ昔の文化を伝えるだけではなく、草原が二酸化炭素の固定(つまり、二酸化炭素の削減)に有効であることや、水資源の確保、涵養エリアとして森林より高機能であること、これから先の私たちの豊かな生活に欠かせないものだという意識を、多くの方に理解してもらうことが重要です。
②…安比高原では、阿蘇と同じく草原の風景の中に馬が欠かせない文化を持っています。ただその馬を養うだけではなく、草原で養われた馬が現代の経済に貢献する場をつくることが必要です。例えば乗馬体験、観光用馬車などといった、馬の仕事、ホースワークを確保する。そういう仕組みがこれから必要になってきます。
③…草原保全を志し、携わってきた方も、活動が続く中で高齢化が進み、活動に限界がくることが予想されています。若い人が現地を離れずに生活することができ、草原保全活動に積極的に関われる環境を作ることが求められています。
また、守るべきは、○○高原、△△草原と銘打たれるような大きな草原だけではありません。人の生活のそばの草原、河原や空き地、田んぼの畦などの小さな草原も、今ピンチを迎えています。まんべんなくコンクリートで塗りつぶされ、人が草に触れるささやかな草原が失われることで、大きな草原をひとつ失うのに匹敵する草原文化がなくなっていくのです。
都会の真ん中にいると、草原というのが、どこか遠くの、自分とは関係がないものという感覚になるのは無理ないことだと思いますが、そんな方達にも、ぜひ、小さな草原に目を向けてほしいなと思いました。
パネルディスカッションでは、カヤで健康的に地元の経済を回すカヤプロという取り組みがあり、小学生が主体となって行われたというめっちゃ楽しい事例報告がありました。会場の注目度(というか盛り上がり)も、とても高かったです!これも阿蘇に持ち帰ってみんなに聞いてもらいたい話だと思いました。
そして、最後、パネラー3人に聞く、『これからの10年、草原保全に求められるもの』。
岡野さん…楽しい取り組み!
高川さん…草原に関わるモノやお金、ヒトの循環の仕組みを見つけ、全国展開していくこと。
白川さん…よそから来て、草原を体験してもらうツアーを作ること。
三者三様ではありますが、思いっきりまとめると、
みんなが草原を楽しんで守ること!
守らなきゃ、遺さなきゃ、と切羽詰まって半泣きで歯を食いしばって頑張るのではなくて、現代の経済スタイルや生活にフィットしていきながら、草原の傍にいるひとも、草原から遠くにいる人も、草原を愛して楽しんで、喜びを以って健康的に循環していくことを目指すのが、これからの私たちの10年の取り組みになる。
…ということだと思いました。
都会のど真ん中で、楽しい草原の話が聞けて、心が癒されました。また、全国各地で、阿蘇と同じように草原保全に取り組む仲間がいることを感じて、心強く思いました。
次回は、第11回全国草原サミット・シンポジウムin上山高原と題して、2016年10月15日~17日の日程で兵庫県の新温泉町で開催が予定されています。
秋は、兵庫で、レッツ草原サミット!皆様のご参加、お待ちしております。